【対談】食の境界を越えて── 吉村日出国シェフと台湾料理研究家・蔡明宏が語る「美味の哲学」
本稿は、明治創業の島根の老舗料亭「魚一(うおいち)」の伝統を継承する吉村日出国シェフと、東京・六本木の台湾プライベートダイニング「吟月(ぎんげつ)」を運営する台湾料理研究家・蔡明宏さんへの取材をもとに、お二人の対談を構成したものである。
蔡:吉村シェフが考える日本料理の理念とは、どのようなものでしょうか。献立を設計される際の哲学についても、ぜひお聞かせください。
吉村:私にとって料理とは、「理(ことわり)を料(はか)る」こと、すなわち食材が持つ本質的な理を理解し、適切に扱うことに他なりません。献立の設計においては、「身土不二」「不易流行」「守破離」、そして五味・五色・五法・五適・五感という考え方に則した献立作りをしています。
台湾料理にも通じる考え方はありますか。
蔡:台湾料理には五行哲学のような概念はあまりありませんが、「食材を適切に扱う」という考え方は同じです。台湾料理は歴史的背景から、中国、日本、米国、さらにはベトナムやタイなど、多様な要素が融合してきました。しかし、その核心にあるのは中華と日本の調理法です。台湾料理と日本料理には、多くの共通点があるのではないでしょうか。
吉村:日本料理について言えば、日本は米を主食とする文化です。歴史的には中国の影響が大きく、仏教とともに伝来した料理も少なくありません。周辺諸国の影響を吸収し、融合させてきたのが日本料理ですが、その根底には日本の宗教観、あるいは原始的な精神があります。また、島国ゆえに魚介を多用し、「発酵」も重要な要素です。
台湾にも発酵の文化はありますか。
蔡:ありますが、日本ほど多くはないかもしれません。台湾はより小さな島ですので、発酵よりも食材の「鮮度」が重視されます。どこでもすぐに新鮮なものが手に入るからです。発酵食で最も有名なのは臭豆腐でしょう。また、台湾は果物が豊富ですが、暑さで傷みやすいため、砂糖を加えて蜜餞(ミィジェン)やジャムにして保存する文化が発達しました。
吉村:日本は南北に長く、地域によって気候が異なりますし、明瞭な四季があります。「旬」を尊び、季節に合わせてガラスや陶磁器など器を使い分けます。料理を通じて四季を表現することは、非常に大切なことなのです。
蔡:その点は本当に羨ましく、学ぶべきところです。台湾や一般的な中華料理では白い皿が多用されますが、日本料理は色彩や質感に合わせて器を選びます。それが料理をより一層、美味しく見せていますね。
吉村:日本の器を洋食やフレンチに取り入れる試みは、私にとっても驚きであり、学びがありました。日本の器とフレンチの盛り付けが、これほど面白く融合するとは予想外でした。
蔡:日本料理の未来をどのように見ていらっしゃいますか。
吉村:懸念しているのは、日本料理人を志す若者が急減していることです。日本料理が衰退し、滅びるとは思いませんが、若い世代がこの世界に飛び込めるように業界を改革していく必要があると感じています。