【視点】「書道」がユネスコ無形文化遺産に=山本英雲(本名 山本廣基)・国立大学法人島根大学・元学長
「書道」がユネスコ無形文化遺産として、2026年11月頃にユネスコ政府間委員会で登録決定される予定である。「筆、墨、硯、紙等の用具用材を用いて、漢字、仮名、漢字かな交じりの書、または篆刻として、伝統的な筆遣いや技法の下に、手書きする文字表現の行為」を対象としている。登録無形文化財の保持団体は2021年に設立された「日本書道文化協会」で、会長は文化勲章受章者で日本芸術院会員の井茂圭洞先生である。我が国を代表する書家による登録無形文化財「書道」特別揮毫会や大阪・関西万博における書道イベント、全国各地で開催される「街なか書道体験」など、書道文化振興のための多くの事業を展開している。
我が国における書道は、篆書、隷書、楷書、行書、草書といった中国の優れた書から書法を吸収、技法を工夫していく中で、和様と称される漢字の書風が生まれ、また、和歌文化の隆盛とともに、散らし書きや連綿の技法を装飾料紙等に表現する「かな書」が発展した。近年には現代の詩歌を書表現する「漢字かな交じりの書」の発展も著しい。
文化勲章受章者で漢字かな交じりの書を提唱した金子鴎亭先生の「書の創作要訣二十章」の最後には、「書は線の芸術である。色や物の形の助けは得られない。筆者の人格の全てが投影される。技法というものは手段にすぎない。自己の修養を高めて深遠な趣致を書に托したいものである。」とある。作品には作者の人格が投影され、感興ある衒(てら)いのない作品こそ鑑る人を感動させるのだろう。
優れた書は,後の時代に名筆として重視され、単に典籍の写本としてだけでなく、文字や書法を学ぶための手本として、また、鑑賞の対象として尊重されてきた。日常生活に根ざした書道は、手習いの実践と、目習いとも呼ばれる鑑賞の蓄積によって広く生活の中に受容され浸透してきた。その結果、現代における優れた書の表現にも伝統的に育まれてきた美意識を見てとることができ、高い芸術性も獲得してきた。さらに、歴史と伝統を踏まえた書法を継承していくとともに、時代の変化に応じた新たな創造を展開して、書の芸術性を一層高めることが求められる。(山本英雲 やまもとえいうん)

【略歴】 山本英雲(本名 山本廣基) 1947年、大阪府八尾市生まれ、島根県松江市在住。国立大学法人島根大学学長、独立行政法人大学入試センター理事長を務めた経歴を持つ。1975年から大学勤務の傍ら書道を始める、現在は毎日書道展審査会員、創玄書道会一科審査会員、日本詩文書作家協会評議員を務めている。