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【インタビュー】華道・京都桑原専慶流 「花と人が協力して生んだ「和」がそうさせるのだと思います、それこそが大きな意味での花道の魅力だと考えます。」━ 桑原仙溪さん

京都市 2021/09/15 16:03
華道
京都桑原専慶流

桑原専慶流は江戸時代前期に桑原冨春軒仙溪(くわはらふしゅんけんせんけい)が京都で始めた流派。現在は15世家元、桑原仙溪氏が継承する。桑原仙溪、1961年、大阪府生まれ。1984年、十四世家元の長女櫻子と結婚し、家元を補佐しながら教授活動を開始。古典の継承といけばなの普及に力を入れる。2004年、十五世家元襲名。公益財団法人日本いけばな芸術協会理事、京都いけばな協会会長。

【桑原専慶流 ━ 花道の魅力】
桑原仙溪さんはインタビューを受けたとき「花道の魅力はと問われたとき、返答は人によって様々だと思います。私自身もいけばなを習い始めた頃と今では、違う答えをするでしょう。今私が感じているのは、花と協力して生き生きとした美しい世界をつくりだせることの素晴らしさです。自然の一部を切り取り器に入れることで花たちが新たな物語を語り始めます。でもこれがなかなか難しいのです。花と心を通わせて、それぞれの個性を存分に発揮させることが大切です。花と良い関係を築くにはそれなりの時間がかかります。また、いつ頃どんな環境に育つのかを知り、花を生かす技術が身についていないと、花は良い表情を見せてくれません。花は大切に扱い心をこめていけると必ずそれに応えてくれます。肝心なのは花を敬う気持ちです。すべての命を尊ぶ感覚。そのような気持ちで、花と協力して一緒になって綺麗なもの、何か人をほっとさせるものをつくりあげる、それがいけばなの究極の姿です。もう一つ花道の魅力を付け加えるなら、「和」をつくりだせることです。無機質な部屋でも花がいけられているだけで、心に気持ち良い風が吹き抜け、その場の空気がふわりと柔らかくなります。花と人が協力して生んだ「和」がそうさせるのだと思います。花と器、花と花、花と人、人と人の「和」が生まれる、それこそが大きな意味での花道の魅力だと考えます。花道の鑑賞の方法もさまざまです。どんな芸術でもどれだけ深く感じ取れるかは、観る側の力量で変わってきます。それにもちろん良いいけばなもあれば、良くないいけばなもあります。鑑賞のポイントをあげてみましょう。まずは、いけられた花たちの命を感じるかどうか。そして花と花、花と器が調和しているか。まわりの空間に合っているか。あまり近くで見ていては器が目に入りません。少し離れて全体を見て感じて下さい。立体感やそれぞれの間合いからどんな印象を受けるか、頭でなく心で感じるようにすれば、優れたいけばなであれば、きっと心地よい風が心に届くでしょう。」と語りました。


【桑原仙溪さんの作品】

松一色の立花。

松一色の立花
桑原さんは「大きな諸流派合同いけばな展のために立てた松一色(まついっしき)の立花(りっか)です。沢山の流派が競い合ういけばな展には、普段いけることができないような特別な花や枝をいけることがあります。この時も元々枝がヘアピンのように曲がった松を花屋さんが見つけて届けてくれました。まるで竜のようなこの松の枝をどうやって生かすか。悩みながら立てたのを覚えています。立花(りっか)は古い時代から伝わるいけばなの様式で、9つの役枝でつくるとても複雑ないけばなです。水際(みずぎわ)で足元が1本にまとまり、器の口から垂直に立ち、様々な方向に枝を出します。それぞれの枝の特徴を生かしながら全体が調和しなければなりません。
何十年も風雪に耐えた松の姿は神々しくさえあります。その命をいただいた以上、全力でいけなければその松に申し訳ない。そんな気持ちでいけました。私と松の出逢いから生まれた、私にとって忘れられない一作です」と説明する。

 

枯れゆく葉色。枯れゆく葉色
桑原さんは「オモダカの葉は狐の顔を連想させます。あまり花屋には出回りませんが、水生植物らしいしとやかさを感じる花材です。ちょうど枯れ色に染まり始めた葉を花屋さんが大切に残しておいてくれました。茎まで黄色に変色した葉は瑞々しさをぎりぎり残していて、群れを従えた狐の親分のような存在感があります。そんな想像をふくらませながらいけるのが好きです。水辺の草むらに身を隠すように走る狐たち。背の高いダンチクをあえて短くいけて、川べりの舞台をつくってあげました。サワキキョウの紫色の花の下でじゃれ合う子狐たち。狐の跳躍を思わせるようなダンチクの葉の広がり。花の生け方は人それぞれですが、花から受けた印象を大切にしていけた花が、それを見た人にも伝わってくれると嬉しいし、そういう心の繋がりもいけばなの魅力の一つだと思います。黒い背景に置くと、オモダカの微妙な枯れ色がひときわ印象的になりました」と説明する。



秋のいけばな。秋のいけばな
桑原さんは「京都の陶芸家、宇野仁松の花器は分厚く重みがあり、凹凸のある表面は自然の味わいがある。それでいて軽やかな形は周囲に心地よい緊張を与えてくれる。水を満たして花をいけると、植物と一体となっていきいきとしてくる。この器には花を呼び寄せるような何かがある。鷹の羽薄(タカノハススキ)の穂としなやかな葉は秋の野を感じさせてくれる。自由に伸びる蔓梅擬(ツルウメモドキ)の艶やかな実。そして季節の野の花を加えたい。白い花は柏葉白熊(カシワバハグマ)」と説明する。
 
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