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松本三千子さん「見たこともない省胎七宝が生まれてくるよう日々新たな気持ちでいます」

松江市 2021/12/22 13:57
第64回日本伝統工芸展入選作品(2017) 省胎七宝鉢「夕さり」(宮内庁買い上げ) ©Michiko Matsumoto
第64回日本伝統工芸展入選作品(2017) 省胎七宝鉢「夕さり」(宮内庁買い上げ) ©Michiko Matsumoto
省胎七宝の工芸作家
松本三千子

省胎七宝の工芸作家── 松本三千子(Michiko Matsumoto)
1967年に松江で生まれ、1996年に省胎七宝に一目惚れし、同年に増永陽氏から学び、1999年日本伝統工芸展に初出品初入選した。2005年に日本工芸会の正会員に認定された。

【公募展での入賞・実績】
2007年 第54回日本伝統工芸展 日本工芸会新人賞
2012年 第55回日本伝統工芸中国支部展 金重陶陽賞
2016年 第63回日本伝統工芸展 高松宮記念賞
第64回日本伝統工芸展(2017)入選作品 省胎七宝鉢『夕さり』宮内庁買上げ

 
松本三千子さん創作中の写真
松本三千子さん創作中の写真
 

── 制作の思想
省胎七宝とは29歳の時に出会い、「省胎七宝で自分を表現したい」と思ったのがきっかけでした。制作にあたり「身近な感動」を大切にしています。身近な感動をテーマにデザインすると素直な心情で表現の膨らみが自然と出てきます。見たこともない省胎七宝が生まれてくるよう日々新たな気持ちで励んでいます。

 
 

── 技法について
         魅力
・省胎七宝の一番の特徴である透けているところ
・制作の途中でもヒビが入るので完成させるまでの緊張感
・銅が溶けて生まれてきた作品と対面する時の感動=達成感
・省胎七宝の厚さは2~3㎜。骨組みとなる銀線と釉薬だけで出来ている。とても繊細で脆く実用的でないものを敢えて作ることの意義。

 

【省胎七宝の作り方】
素地を作る→ 銀線を立てる→ 釉薬を挿す→ 焼成→ 研磨→ 銅を溶かす
 

胎を溶かす前の作品(左)と胎を溶かした後の作品(右) ©Michiko Matsumoto胎を溶かす前の作品(左)と胎を溶かした後の作品(右) ©Michiko Matsumoto
 

七宝焼でボディのもととなる金属で出来た素地を胎といい、制作過程の最後にこの胎を省いてなくしてしまうので省胎七宝といいます。胎に下引釉薬を焼き付けた後、リボン状の銀線を模様に合わせてピンセットでパーツを作り胎に立てていき焼き付けます。次に銀線で区切られた模様の中に釉薬を挿して800度位で焼きます。焼くことにより目減りするのでこの工程を3~4回繰り返します。次に銀線の高さになるまでダイヤモンドペーパーで荒研ぎ~本研ぎで小さいキズがなくなるまで研ぎます。ここまでで出来上がった作品に塩化ビニール系樹脂を塗り表面を保護し、その後に酸に浸け銅の胎を溶かします。保護膜をはがして磨きをかけて完成です。

 
 

── 代表的な作品 2点
 

省胎七宝鉢「露華」第54回日本伝統工芸展 日本工芸会新人賞作品 © Michiko Matsumoto
省胎七宝鉢「露華」第54回日本伝統工芸展 日本工芸会新人賞作品 © Michiko Matsumoto
 

省胎七宝鉢「露華」
作品を作る気力をなくし、心が真っ暗な時に作った作品です。
心がモノトーンの世界の時、父が育てていた朝顔が露をはじかせて生き生きと咲いている姿を見て勇気をもらい作品を作ることができました。しかし、心はモノトーンだったので色を入れることが出来ず素直にそのままモノトーンの朝顔になりました。形は省胎七宝で見たことがない捻り鉢に挑戦しました。

── 松本三千子

 
省胎七宝鉢「蒼海」 第63回日本伝統工芸展 高松宮記念賞受賞作品 ©Michiko Matsumoto
省胎七宝鉢「蒼海」 第63回日本伝統工芸展 高松宮記念賞受賞作品 ©Michiko Matsumoto
 

省胎七宝鉢「蒼海」
この作品は心情をそのまま表現出来た作品です。
説明しすぎないで、見るひとが想像できる作品が作りたいと思っていました。
『私を待っている人がいる島へ向かうフェリーから見た空と海。』を表現しました。
世界に繋がっている空。太陽の光を反射して輝く海。この風景に希望の光を感じて生まれた作品です。

── 松本三千子


 
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