神秘的かつ幻想的なゴシックロマン主義 パリ フュースリー展
フュースリー
現在、パリのジャックマール=アンドレ美術館(Musée Jacquemart-André)ではスイス系イギリス人画家ヨハン・ハインリヒ・フュースリー(Johann Heinrich Füssli,1741-1825)の作品が展示されている。この展覧会《Füssli, entre rêve et fantastique》は公的及び個人的コレクションから約60点もの作品が展示されている。フュースリー作品の中で最もシンボリックなシェイクスピアをテーマにしたものから夢、幻影、神話、聖書を扱ったものまで集められている。参観者はフュースリーが夢や幻想からの転換期にて忘れ難いゴシックロマン主義を目にすることとなる。
フュースリーは幼少期にイギリス演劇に興味を抱き、特にシェイクスピアやマーロウなどの作家に惹かれた Johann Heinrich Füssli (1741 – 1825), Les trois sorcières, après 1783, huile sur toile, 75 x 90 cm, photo: Royal Shakespeare Company Theatre Collection
フュースリーの父親は画家であり芸術史学家である。幼き頃から彼の父はフュースリーが神職者になることを望み、芸術の道に足を踏み入れるまでは神学を学んでいた。その後、神学から文学研究へと転換し、芸術創作へと至るのである。これらから芸術人生のスタートは比較的遅かったことがわかる。1765年にはロンドンへと渡り、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ院長のジョシュア・レノルズ氏に影響を受け、絵画に専念することを決心した。1770年、彼はイタリアに渡りミケランジェロに魅了される。1779年初めにロンドンに戻り拠点とした。1782 年、第一版の《Le Cauchemar(夢魔)》を発表し大成功を収めると同時に職業画家としての地位を確立した。
《夢魔》はフュースリー自身から生み出されたものであり、文学からインスピレーションを受けたものではない Johann Heinrich Füssli (1741 – 1825), Le Cauchemar, après 1782, huile sur toile, 31,5 × 23 cm, photo : Frances Lehman Loeb Art Center, Vassar, Poughkeepsie, NY / Art Resource, NY
主催団体は「本展覧会はシェイクスピアを題材とした作品《Roméo et Juliette,(ロミオとジュリエット)》、《Macbeth(マクベス)》を皮切りに、古代ギリシャローマ神話、北欧神話、聖書の物語、女性肖像画、最後に《夢魔》へと続きます。フュースリーは様々な文学資源からインスピレーションを受け、想像力を介した解釈をする唯一無二の芸術家です。彼の作品には怪物や恐ろしくも神秘的な生物が紛れ込んでおり、劇的で不気味な作風こそが彼を古典主義からロマン主義の過渡期の人物にしたのです。特徴として強烈な明暗の比較が挙げられ、明らかな演劇色を演出しています。様々な文学資源からインスピレーションの享受を続ける中でフュースリーは混合生物(怪物や西洋洞窟の魔物、恐ろしい生物など)を生み出しました。1781 年に代表作《夢魔》を発表後、更なる煽動性と恐怖性を追求していきました。生贄や悪魔、神秘的生物は彼をゴシックの欠かすことのできない代表的存在へと導きました。」
Johann Heinrich Füssli (1741 – 1825), Lady Macbeth somnambule, vers 1784, huile sur toile, 221 x 160 cm, © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Hervé Lewandowski
本展覧会ではミルトンギャラリー(la Milton Gallery)で最も重要な作品《Le songe du berger(羊飼いの夢)》も展示される。眠っている羊飼いの上を超自然生物が回っている様子が描かれている。フュースリーは混合生物や怪物、妖精や幻影を通して一種の新たな美学を生み出し、この美学はオリジナル性に溢れ、多くの人々に愛された。展覧会はパリのジャックマール=アンドレ美術館にて2023年1月 23日まで開催されている。https://www.musee-jacquemart-andre.com/fr/home