静けさの中に有る人を呼び覚ます力 「現代日本画の中流砥柱」 ── 村岡貴美男
村岡貴美男
「現代日本画の中流砥柱」との呼び声が高い芸術家村岡貴美男(Muraoka Kimio)氏は、1966年京都府出身、東京藝術大学卒業。現在、女子美術大学日本画専攻教授を任されている。過去には内閣総理大臣賞、法務大臣賞、文部科学大臣賞、日本美術院賞等数々の賞を受賞している。伝統的な日本画を軸としながらも、日本画の素材の限界を超えるという創作理念に基づき不断の挑戦を続けている。村岡貴美男氏は手作りに拘っている。それは人の手が作るイレギュラーな雑味こそが命だと考えているかだ。今年の10月には日本橋三越本店にて「記憶のかたち、かたちの記憶」をテーマに掲げた個展を開催した。
「深淵」文部科学大臣賞。©Muraoka Kimio
村岡貴美男氏はインタビュー時「本展のテーマ『記憶のかたち、かたちの記憶』で私が伝えたいのは放っておいてもこの世界はこの先、更にデジタルに置き換わって行きます。この一年間、オンラインで色々な事が可能になりました。便利になった反面、現物の重要性も強く意識しました。手に触れられる「実(じつ)」というものの重要性、目や手が覚えている肌合いや形態の記憶を、形ある物として残しておきたいという思いです。」と話した。
「浄夜〜鳥の夢〜」。©Muraoka Kimio、Photograph: Kenji Takahashi
展示作品「浄夜〜鳥の夢〜」コロナに限らずこの世界の不浄な物を焼き払う終末思想の絵です。それは鳥が見ている夢なのか、たくさんの人が同じ鳥の夢を見ているのか。この世界最後の鳥のフォルムを、鳥の祖先である始祖鳥の姿に重ねて描きました。
「転生〜蝶の夢〜」©Muraoka Kimio、Photograph: Kenji Takahashi
展示作品「転生〜蝶の夢〜」。彼岸花を献花のように配置し、2人の人物が蝶の形になるように描いています。2人は同一人物なのか、双子なのか、全く知らない他人同士なのか。画面の左右を入れ換えて展示できる作りになっており、左右を置き換えると指に結んだそれぞれの赤い糸が繋がるようになっています。転生をテーマに描きました。
「記憶のモノリス」©Muraoka Kimio、Photograph: Kenji Takahashi
展示作品「記憶のモノリス」。6点のシリーズ作品で、モノリスに閉じ込めた記憶を描きました。平面作品と立体作品の要素を持ち合わせており、作品が空中に浮いて見える構造になっています。形を持たない「記憶」というものを標本のように真空パックして保存したような作品です。
村岡貴美男氏は「私が書くのは写実画ですが、写真とは異なるリアリティを追求しています。私の創作は伝統的な日本画に軸足を置きながらも素材の垣根を越えた自由さもあります。私は手作りに拘っています。それは人の手が作るイレギュラーな雑味こそが命だと考えているからです。私が伝えたい芸術理念は奇をてらった刺激的な表現ではなく、安易な癒し表現でもない、一見静かであっても人を覚醒させる力を持ったものです。絵画は積極的に自身が向き合わなければ、その内容を読み解く事が出来ませんが、数多くの作品に触れるうちに人の読解力を向上させる力を持った存在だと考えます。将来的には試してみたい展示形態が幾つかあるので、それを個展として実現させてゆきたい。それから、より近い感覚をもっているであろうアジアの人の目に触れる機会を多く作ってゆきたい。」と話した。